現在高速データ通信や画像伝送、無線機器をはじめデジタル機器の発達により信号の伝送速度が飛躍的に増していますが、これらの高速伝送には伝送路の特性インピーダンスの整合が必要になります。
電気信号の伝送路において、送り出し側電圧が一定として、その回路の出力インピーダンスと、受け側回路の入力インピーダンスを等しくすることにより、受け側回路において得られる電力が最大になる性質を持ちます。そのため、効率的に伝送を行うためには、それらのインピーダンスを合わせる必要があります。
反射は高周波(電波)や高速のパルス信号を伝送する場合に顕著になる問題です。直流回路では問題になることはないのですが、回路の入出力インピーダンスが異なると線路上に反射による定在波が発生してしまうため、インピーダンス値をあわせる必要があります。
FPCの伝送路では主に反射の問題から特性インピーダンスのマッチングが必要になることが多いです。
高周波域で伝送路が分布定数で表される場合、特性インピーダンスは下記式で表されます。
f:周波数(Hz)
C:キャパシタンス(静電容量)…誘電率εr・線幅に比例、線間距離に反比例
L:インダクタンス(コイル) 電流と磁束との比例定数(L=µ(d/w) µ:透磁率 w:線幅 d:線間距離)
R:抵抗
G:コンダクタンス
特性インピーダンスはCとLに収束され、信号幅の太さ、絶縁材料の誘電率と厚さ、信号線とグランドの距離に影響されます。
高速信号線では、全長にわたり均一な特性インピーダンス値になるように設計していますので、一般的に伝送路のモデルは断面図で紹介されています。FPCでの高速伝送路は主にコプレーナ、マイクロストリップ、ストリップのモデルが挙げられます。
名称 | コプレーナ | マイクロストリップ | ストリップ |
---|---|---|---|
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構造 | 片面 | 両面 | 3層以上 |
主な信号層配線 S:信号 G:グランド |
G,S,G | S or G,S,G | S or G,S,G |
G,S,S,G | S,S or G,S,S,G | S,S or G,S,S,G |
コプレーナ、マイクロストリップ、ストリップの各モデルを用いたFPCの一般的な特性をまとめました。
名称 | コプレーナ | マイクロストリップ | ストリップ | |
---|---|---|---|---|
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信号層配線(※) | シングルエンド | G,S,G (信号線をグランド線で挟む) |
S or G,S,G | S or G,S,G |
差動 | G,S,S,G | S,S or G,S,S,G | S,S or G,S,S,G | |
信号層の高密度配線性(※) | △ | ◎ | ◎ | |
伝送特性(※) | 伝送損失 | ◎ | ○ | △ |
耐ノイズ性 | × | ○ | ◎ | |
クロストーク特性 | ○ | ◎ | ◎ | |
機械特性(※) | 柔軟性、耐屈曲性 | ◎ | △ | × |
主な使用例 | (例)産業用製造装置内可動配線 | (例)ノートPC他 狭小部機器内配線 | (例)耐ノイズ環境(医療・分析機器) |
◎ 最適
○ 適合
△ やや適合
× 適さない
高速伝送FPCは、以上の特徴を踏まえて使用用途によりモデルを選択しています。原則的には下記のような使い分けをしています。
EMI・EMCを防ぐ耐ノイズ性が必要な場合(医療機器内配線 分析装置内配線など)⇒ストリップ、マイクロストリップ
伝送損失を少なくしたい場合(光OE/EO周辺 高速信号伝送(例)3GHz~)線路長が長いもの)⇒コプレーナ、マイクロストリップ(高速信号伝送)
耐屈曲性が必要な場合(製造機器内スライド屈曲部)⇒コプレーナ
ただし「シールドつきで屈曲可動させたい」など、上記のルールにあてはまらない構成も対応しています。お困りの際は当社にご相談いただければ幸いです。
差動伝送は2本の信号の電位差で波形を構成するので、小さい電圧で波形を作れます。電圧が小さければ信号の立ち上がり時間が少なくてすむので、信号の周波数の高速化に対応できます。実際、最近の信号規格の多くは差動伝送になっています。
これらの伝送方式によって信号線を配線させる時の並べ方は以下になります。
コプレーナ…グランド線で信号線を挟みます。(グランド 信号 グランドの並び)
ストリップおよびマイクロストリップ…信号線のみでの配線(信号 信号…)か、信号のクロストークを防ぐ目的で信号線をグランド線で挟む場合もあります。(グランド 信号 グランド)
信号線と同一面にグランドが必要なコプレーナと比較し、マイクロストリップおよびストリップは信号層以外にグランド面が配置されているため、信号層面でのグランド線が必ずしも必須ではなく線路数の削減により配線密度が向上します。
また、後述のクロストーク特性も信号線間距離が同じと仮定した場合、ストリップおよびマイクロストリップがコプレーナより優れており、グランド線の有無に関わらず配線密度が高い状態でもクロストーク特性に優位に働きます。
主にストリップ≧マイクロストリップ>コプレーナとなります。
インピーダンス整合された信号線幅は主に信号-グランド間隙のC(キャパシタンス)値により決まります。C値が高ければ信号線幅は細く、低い場合には信号線幅が太くなります。信号線幅が太ければ導体損失が少なくなりますので高速信号伝送で有利に働きます。主にコプレーナ<マイクロストリップ<ストリップの順に損失が増していきます。
信号線幅を太くする(=C値を下げる)対策としては、絶縁層を厚くさせる、低誘電材を用いる、グランド面をメッシュ構造にするなどがあります。
また、C値低減以外で伝送損失を低減させる対策として、液晶ポリマー(LCP)をはじめとした低誘電材を用いることにより、伝送損失内の誘電損失成分を低減させる方法もあります。低誘電材の使用は周波数が高いものほど伝送損失の低減効果が得られます。
主にストリップ>マイクロストリップ>コプレーナの順になります。
主にストリップ>マイクロストリップ>コプレーナの順になります。
などの方法で柔軟性改善は行えます。ただし耐屈曲性はコプレーナに比べ大きく劣ります。柔軟性、耐屈曲性ともに、コプレーナ>>マイクロストリップ>ストリップの順に優れています。